此処にたどり着いた時の事だらう? そいつあ、あべこべだ。留公の方ぢや香代ちやんに助けられたと言つてたぜ。
より さう? 変ねえ。でも香代ちやんは[#「香代ちやんは」は底本では「香代ちゃんは」]さう言つたわよ。
辰造 そんな事どうでもいいよ。留の奴あ、どうしても、もう二千円近くの金は溜めてゐると俺あ睨んでゐるんだ。
より (眼を丸くして)二千円? 嘘う! いくらなんだつて、留さんが此処へ来たのが去年の秋で、今、四月だから、まだやつと、半年そこそこよ。いくら稼いだつて――。それに、そんなに金の有る人が、此の家へ来ても酒一滴飲まず、食べる物だつて一番安い物を、大概うどんよ、それも一日に二回しきや食べない事があるのに、まさかあ!
辰造 それなんだ! 食ふものも食はないで稼ぐ奴だ。それを利息を取つて人に貸す。近頃ぢや、仲間の連中に五十銭一円と日歩の金を貸し附けてゐるんだぜ。今日五十銭借りると明日十銭附けて六十銭返すんだ。なんて事あ無え、日歩二割ぢや無えか! みんな、うらみにうらんでゐるぜ。しかし、やつぱり苦しいもんだから借りちまうんだ。
志水 さう言へば、留吉あ、まだ、あがつて来ねえのかなあ。

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