より 今夜は残業だつて言つてたわよ。
志水 あゝ、さうだ、ありや金助と一緒だつた。
辰造 あいつは去年の秋此の町へ来た時に、いい加減金あ持つてゐたと俺あ睨んでゐるよ。渡り人足の我利々々な奴と来た日にや、煮ても焼いても食へねえ。ぺつ! 畜生、酒えまずくなつたい! 新らしいのを附けてくれ、より公。
志水 もういいよ、今夜あ、それで止せよ。
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(蔦屋の女主人のお磯――三十七八才――が奥から出て来る)
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辰造 いいよ、大事な晩だ、絶対に酔はねえ、もう一本だけだ。(より子、立つて行く)飲みでもしなきやたまるかい、ねえお神さん、さうだらう?
磯 いらつしやい。(笑つて)さうですよ。世間がかうセチがらく、せつぱ詰つて来るとね。
辰造 香代ちやんなあ、お神さん、ありや留の奴に惚れてるつてえのは、正直の所、本当かね?
磯 さあね。ウフフ、どうして?
辰造 どうつて訳あ無えけどね、せつかく香代ちやん程のいい女が、選りに選つて、あんなケダモノ野郎にさ――。しかも留の奴あ、知らん顔してゐるさうぢや無いか。
より やける? もしかすると、あんた香代ちやんにホの字ぢや
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