留吉 (うつかり自分から金の事を言つたのに自分で周章てゝ、自分の口も香代の口も一緒にして塞いでしまひたい衝動で、両手を突出して宙に振る)えゝい! 言ふなつ! 金ぢや無いつてば! 言ふなつ! 金ぢや無いつ! もう何も言ふなつ!
香代 お前さん、それ、何の真似なの?
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(近づいて来る列車の響)
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留吉 何の真似だらうと、大きなお世話だつ! 人に水を飲ませたりして、親切さうにしやあがつて――(ゼイゼイ肩で息をしつゝ線路の上に立ちはだかつてゐるが、弱つた身体が昂奮のために今にも倒れさうだ)
香代 ……(あまりの言ひがかりに、怒る前に苦笑)水だつて? フン、さう、水か。フフ。……まあ、どうでもいいぢや無いの?
留吉 うぬあ、ぬすつとか!
香代 え? ……(呆れて相手を見詰める)
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(間。――二人は、丘の麓と線路の上と離れたまゝ、見合つてゐる。ゴーツと近づいて来る列車の響。汽笛)
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香代 危い! 汽車が来たよ! (三四歩進む)
留吉 (線路の上を香代から反対の方向へ逃げようとするが、足元がもつれて、ヨロヨ
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