そんなに喋つちや、まだいけないんでせう。……さあね仕事と言われたつて、私なんぞにや――。
留吉 この、胸んとこが、苦しくつて、仕様が無えんですよ。
香代 着物を少しゆるくしたら。どれ……(留吉の着てゐるものをゆるめてやりはじめる)……少しは楽になつたでせう? 胸も少しはだけたらどう? これなに? どうにか側へやれないの?
留吉 (出しぬけにギヤーツと言う様な叫声を上げて、手足をもがいて跳ね起きる)な、な、何をするんだ!
香代 (びつくりして)あつ! なんですよつ!
留吉 (胸の所を押へてヂリヂリ後しざりに線路の方へ)こ、こ、これを、俺のこれを、……何をしやがるんだつ! ……これに手を触れたら、こ、こ、殺すぞ! 畜生、うぬあ、……ち、畜生! (肩で息をしながら、ギラギラ光る眼が香代を睨んで立つ。殆んど常識では考へられない程の突変[#「突変」に「ママ」の注記]した見幕である)
香代 (あつけに取られて)……なにさあ! どうしたんですよ?
留吉 どうしたと? 人を、人を、親切ごかしに、たらし込もうとしやあがつても、その手に乗るかつ! ばいため! 人の金を――!
香代 ……金? それ、金なの?
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