困つたねえ、ちよつ、ちよつと待つて、取つて来るから――。(置いてあつた茶碗を取る)
留吉 水を! 水をくれ!
香代 ……(相手の様子を見ては走り出して行きもならず、留吉の顔と茶碗の中を見較べてゐたが、それを留吉の口の所に持つて行つて、中味を空けてしまふ)……仕方が無い。(少し、むせる留吉)……あんた、どうしたの?
留吉 (寝たまま稍々元気になり)……腹も……空いてるが、……病気だ。……病気です。脚気――。
香代 病気なの? さう。私あまたどうしたのかと思つてさ。
留吉 ……あんたあ、誰だ?
香代 私あ、お香代といふのよ。……(先程からの自分だけの気持と、今自分のした事を思ひ合せて苦笑してゐる。線路の信号燈の青が赤に変る)
留吉 ……お香代さん、か……どうも、すまねえ。……俺あ留吉と言ふもんです。
香代 フン、……礼にや及びませんよ。フフ、変なもんねえ、ハハ。……(気を変へて)留吉……あんた、此の土地の人ぢや無いのね?
留吉 少し、今日は歩き過ぎた。……(まだ息が苦しさうである)……渡りもんです。……仕事を捜して歩いてる……なんか、此処に、仕事は無えだらうか? ……あゝ苦しい。
香代
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