ートル、地下足袋姿に、乏しい荷物を振分けにして肩にした見すぼらしい渡り人夫の留吉。――三十二三歳だらうが、ひどく老けて見える。疲労と空腹のために顔色蒼白の上に病気。無論、崖の上から香代に見られてゐる事には気が附かない。……柵の所まで歩いて来て、よろけさうになるが、両足を踏みしめるやうにして立直つて歩かうとした拍子に枕木に足を取られ、唸り声を出して前のめりに線路に倒れる)
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香代 あ! ……(思はず立止まつてゐる。留吉は顔を上げない)
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(遠くの列車の響。
香代小走りに降りて行き、麓で手に持つた茶碗を地面へ置いて留吉の傍へ)
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香代 あんた! ……どうしたの? (相手は低く唸つてゐるだけ)……こんな所で……危い……(四辺を見廻したが、思ひ決して留吉の片手とバンドを掴んで懸命にズルズル引つぱつて丘の麓へ)……あゝ重いつたら。……しつかりなさいよ! ……弱つたねえ。
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(一人では駄目だと思つて、誰か迎ひに行かうとする)
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留吉 ……水! 水! 水を、水をくれ!
香代 水だつて?
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