ると歴史における人間の現在の段階は肉体と理知のこのような乖離《かいり》というところにあるのかもわからない。また、もしかすると、これまで人間を存続させ、人間の文化を進歩させてきたものはほかならぬこの肉体と理知の分裂であったかもわからない。もちろん今となっては、この分裂は世界と人間を混乱させ衰弱させるマイナスになっているが、ある時期まではプラスであったかもしれないのである。そのプラスとマイナスの総決算への中間報告的な、またラップ・タイム的な段階が現代かもわからない。また、もしかすると、人間の肉体と理知の現在のような分裂状態はその二つのもののより高い統合という峰《みね》にのぼる直前の、ふかい谷底の風景かもわからない。……いろいろのことが考えられます。
いずれにしろ現前の事実としては、私は私の肉体を愛するが、完全には信頼しきれないのです。私の精神が、どのように私の肉体の条件や本性を考慮にいれ、それとの調和統合においてゆるぎのないと思われる抵抗論をつくりあげたとしても、将来私の肉体が、私の抵抗論を絶対にうらぎることはないとは、私は言いきれない。自身にたいして、いちまつの不安があります。私はこの
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