にしても、そうでした。戦前も戦争中も私の思想は戦争に賛成せず、私の理性は日本の敗北を見とおしていたのに、自分の目の前で無数の同胞が殺されていくのを見ているうちに、私の目はくらみ、負けてはたまらぬと思い、敵をにくいと思い、そして気がついたときには、片隅のところでではあるが、日本戦力の増強のためのボタンの一つを握って立っていたのです。
 これは、私の恥です。私が私自身にくわえた恥です。私の本能や感性が、私の精神と理性にあたえた侮辱です。肉体が精神をうらぎり侮辱することができるほど、私の肉体と精神は分裂していたということです。これは、まさに人間の恥辱のなかの最大の恥辱でありましょう。こんな恥辱をふたたびくりかえさぬように、私はしなければならない。私はそうするつもりです。たぶん、そうできるだろうと思います。
 しかしながら、いくらそのような決意をもち、考えぬき考えぬいておいても、またしても肉体はうらぎるかもわからない。肉体というものが、本来そういうものかもわからないのだ。また、もしかすると、肉体と理性とは近代においては、ある程度まで分裂しているのが自然で合理的なのかもわからない。また、もしかす
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