望は捨てきれないままでの、臆病者の抵抗論です。
つぎに私の肉体の弱さのことを言っておかなければなりません。肉体の弱さといっても私の病弱のことではありません。精神が一度こうと決定したことをも、いざその場にのぞんで現実から本能的・衝動的に点火されれば、往々にして肉体はそれをうらぎって行動する。その肉体の弱さのことです。
理智が論理的に考えつめて生み出したテーゼをも、じっさいの現場にさらしたばあいに往々にして感情はそれをうらぎると言ってもよい。肉体と感情は現実の実感にほだされたり追いつめられたりして、ひじょうにしばしば平常の冷静な思惟に矛盾したりそれを越えたりしてしまう。その「肉体のもろさ」のことです。
たいがいの人びとがそれをもっています。とくに私のように本能的感性的な人間、しかも自分が動物のように本能的感性的であることを、ある意味でたいへん幸福な、よいことだと是認している私のような人間の肉体は、はなはだもろいのです。人と喧嘩するのがこんなに嫌いで臆病なくせに、自分および自分の親しいものが他から不当に侮辱される現場にのぞむと、ついカッとして喧嘩をすることがあるのです。
さきの戦争中
前へ
次へ
全41ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング