にしか書かないし、枚数もすこしなので、それからの収入はごく僅かです。財産も貯蓄もありません。毎月の生活を原稿料でまかなっていく以外に手段はない。まったく手から口への生活である。
私はたいがい戯曲を一編書きあげるのに三カ月を要しますが、書きだすときに生活費がチャンとあったためしがないので、たいがい他から借金します。毎月いくらかずつ借金して三カ月後に作品を書きあげ、それをどこかに売って金をもらい、それで借金をかえすとたいがい、なんにもなくなるか、ごく僅かが残るだけです。もし作品が売れないばあいは、借金は全部ひっかぶらなければなりません。
今まで、ありがたいことに、だいたい売れてきたが、しかし売れないばあいのことを想像すると、書いているあいだも背筋がさむくなります。ヘタをすると家族全部が飢えなければならないのです。飢えた家族たち、および自分の姿を、机のむこうがわにマザマザと見ながら、青ざめた顔をして戯曲を書いているのです。そういう場で私は仕事をしています。
ところで、そういう私という劇作家は全体なんだろう? そうです、二十年あまり戯曲を書いてきている。あまりすぐれた作品は書いていないが
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