、そのため現在のアメリカ政府当局のすることは、たいがい反動的であり反ソ的であるとふだんから思いこんでいるため、朝鮮戦争が勃発するや、さてこそアメリカと南鮮が手を出したと思い、そういう強い疑惑から出発して、その後の公文書や新聞報道を集めて、突き合わして研究すると幾多の矛盾が発見されたので、疑惑は確信のようなものになったというのではなかろうか。すくなくとも、この本をいくら熱心に読んでも、それ以外の理由を私は発見することはできませんでした。
 ストーンが左翼的イデオロギイを持っていることは、けっこうなことです。すくなくとも非難さるべきことではありません。しかし、彼がこの本のなかで採用している方法は、まったく公平なものでなく科学的なものではありません。公平さとは、あらゆる先入観を排除したところから出発することだし、科学的とは、物事の判断を演繹的にではなく、帰納的にすることだからです。土中から発掘した人骨のなかから、とくに犬歯だとか尖った骨だけをえらびだして、人間とは肉食の野獣であると断定されてもそのような断定を、公平な科学的なものだと私どもは思うことができません。
 ストーンは、公文書や報道のなかから、とくにアメリカ当局や南鮮側を有罪の方へ指向するものの多くをえらびだしてならべている。八百屋の店さきから乞食が大根を一本ぬすんだという事件にしても、それを見た人、聞いた人の認識や報告は、それぞれにかなり食いちがうものです。朝鮮戦争のような、大がかりで複雑な事件に関する公文書や報道は、たがいに矛盾したり撞着したりすることがひじょうに多い。それはある程度まで仕方のないことであって、それだから公文書や報道全部が悪意によるフレーム・アップ――たくらみだと断定される理由にはならないと思います。
 もちろん私は、朝鮮戦争についての、アメリカ当局の発表が真実であるとの証明を持っていませんし真実であるとは思っていません。この本を読んでも、真実はその反対であるとも思いえませんでした。それは私が故意に意地悪をしようと思ったためではなく、ただ謙遜に真実を知りたいと思っただけのためです。そして、あなたに言わせると私は「目がさめなかった」のです。「そんな者は白痴というのであろう」と、あなたは言っていられます。じつに私は情ない気がしました。
 私はかなり愚かな人間です。それは十分知っていますが、人から白痴
前へ 次へ
全19ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング