きりでね。しかし外国ではスカンヂナヴイヤや高い土地ではスイスなどの寒い所でもチャンと農業国としてやっとる。勿論、日本では稲作というものがあるから、これは特別に研究される必要があるだろうが、しかし麦の出来る所で米が出来ないと言う道理は無い、理屈から言えばね、研究ひとつだと思う。ひとつしっかりとやってくれたまえ。私は山林やなんかの方で、チと方面は違うが、この奥でカラマツなどを種から育てて見たいと思っている。そいでまあ、別荘――と言うほどでもないが、ここらに小屋でも建てて毎年やって来てすこし本腰をすえてやりたいと思っとるんで、そうなれば君たちの研究の相談相手ぐらいにはなってあげられようかと思う。
壮六 はあ、どうぞよろしうお頼みいたします。なあ金吾!
金吾 うむ。……
壮六 実は私は試験所の方で稲作の方の勉強を主にやっとりまして、この金吾とは小さい時分から一番仲の良い友達でやすもんで、行く行くは二人で力を合わせて、この奥を開いて見べえと言う約束でがして、はあ。金吾は、もうこいで、落窪のはずれの山を二段歩ばかり買っているんでやして。
勝介 そりゃ、えらい。落窪というと――?
壮六 間もなく、その部落をこの馬車が通りますが、その先生のおいでになる野辺山が原の、ちょうど入口にあたる所でがして。
(窓の外を見て)千曲川が、もう間もなくグッと曲りこんで、この道と離れてしまいやすが、するつうと、道はのぼり一方になりやして、その登りつめた所が落窪で、そこから、野辺山が原でやして。
勝介 そうかね、じゃ都合で、私も金吾君に頼んで、その近くに山を買って小屋を建てるか、どうだね。お世話願えまいか?
壮六 そうしていただけりゃ、私らの方もありがたいわけで。なあ金吾?
金吾 うん……
壮六 (じれて)お前どうしたつうんだ? さっきから眼ば据えて、うんうんと言うきりでよ。
金吾 ふう……(今度は低くうなるような声を出す)
勝介 (笑って)まあいい、まあいい、ハハ。
壮六 (取りなすように)いえ、ふだんはこうじゃ無えんでがして。いえ、ふだんから無口な奴じゃありますが、しかし、こんなどうも。なあ金吾よ!
春子 あら!(これは先程から窓の外ばかり見ていたのが、何かを見つけて叫ぶ)あれ、どうしたんでしょう、お父様あんなに、あわてて駆け出して――
勝介 どうした?
春子 ほら、ほら、赤ちゃんの仔馬! ころぶ
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