ホなすったそうですけどね、金吾さんはしかたなくその金を敏行さまに渡してしまいなすったそうでございます。それで、まあ、敏子さまが金吾さんにお母さまは、もしかすると横浜の敦子おばさまの方か、秩父の方かもしれないとおっしゃったそうで――。ですから実は私、こちらへうかがいませば金吾さんとも会えるかもわからないと思いながら参ったのでございます。
敦子 そう! そうだったの。すると金吾さん、秩父の方へ先きに行ったかもしれないわね。いえ、敏ちゃんの事は私の方で引うけました。どうせ主人がもう四五日もすれば戻って来ますしね。いえ、案外にそういう所の名の知れた芸者屋さんなどでは、そういう事でいい加減な事はしないものです。大丈夫、私にまかしといてちょうだい。ただ、金吾さんはそうやって、勝手もよく知らない東京をウロウロして、ひどい目に逢って可哀想にねえ……なぜ、真っすぐここへやって来てくれないのかしら?
鶴 やっぱり、なんじゃございませんでしょうか、敦子奥様にはこれまであんまり御面倒をおかけしているので、そうそうは来にくいのではないでしょうか? 春子奥様にしても同じことだと存じますけど……
敦子 春さんはあれは特別よ。何をそんなにウロチョロしているのだろう。横田なんていう人からいいようにされて来たことだって、どうも様子が、以前、敏行さんが病気になった時なぞに、横田からお金を何度か借りたのね。それを返せ、返せなければその代りにと言うので春さん、さんざんこき使われたり、いいようにされた。それから、うちの主人の話では、横田がセメント会社を乗り取る時に、株式のことやなんかで、ずいぶんいかがわしいことをしたらしいの。敏行さんが、それを訴えるとかいうことになったこともあるらしいのね。その時の事情を春子さんが知っていて、これが訴訟事件にでもなると、春子さんがノッピキのならない証人になるかも知れないと横田の方では思っているらしいのね。なに、春さんはそんなことを、それ程深く知っているものですか、かりに知っていても、そんな手ごわいことのできる人じゃないのよ。ところが横田の方では、それを恐がっていて、その為に春さんをおさえつけて、世間の表面へ出てこないよう、出てこないようにしているらしいの。秩父のセメント山の事務所なぞに押しこめられたりしていたのが、やっぱりそういうわけらしいの。今度もあるいは春子さん、あすこじ
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