Aお小さい時からなんですか自分の娘のような気がいたしておりますので、もう心配で心配で、そいで思い切って出て参りましたようなわけで。そしたら、敏子さまはお父さまの手で、間もなく芸者にお出になるとかって。
敦子 え、芸者に? 敏ちゃんが? だって、あの子は、その市川の方の、先に里子に出されていた内に手伝いで働いていると――
鶴 私も実はそうとばかり思って、市川の方へも行ってみたんでございます、したら――
敦子 だって、敏行なんて人が、今さらあの子を芸者に出すなんてこと、出来る道理は無いじゃありませんの! いえ敏行さんは、ズーッとこの横浜の野毛あたりに住んでいるそうでね、一度私も行き会ったことがあるの。なんか、とてもガラの悪い女の人と一緒でね。とにかく、永いこと春子さんたちに対してあんなシウチをつづけた人が今さら敏ちゃんをそんな――それで春さんは全体それに対してどうなすったの?
鶴 その春子奥様が今どこにいらっしゃるか、わからないので困るんでございます。いえ、初めから話さないと判りません。で、私、そのハガキにあります麻布の元のお内へ参ったんでございます。したら、今は石川さんという表札が出ておりまして、そいでこれこれだと申しましても、誰も相手になってくれないんでして、しまいに何かおめかけさんといったふうの年増の人が出て来まして、もう出してしまった飯たき女中のことなぞわかりませんよと、そう言ってどなりつけるんですよ。しかたがありませんので、今言った市川の内へ参りました。すると、敏子さまは暫く前に横浜のお父さんが連れてお帰りになって、新橋の芸者屋さんに預けられているというじゃございませんか。それで私、新橋のそのおぐらという家へ行ったんでございます。可哀想に敏子さまはもうすっかり芸者の下地ッ子におなりで、久しぶりに私をみて、いきなりオイオイお泣きになりましてね。(鼻をつまらして)それで、いろいろお話をうかがったんですけど、ちょうど私の行きました前の日に、信州の柳沢の金吾さんがたずねていらしたそうで。
敦子 え、金吾さんが?
鶴 はい。それで金吾さんもあちこち春子さまを探しなすっても、やっぱり会えないそうで。そいで三千円とかのお金を敏子さんに渡して下さったそうですけどね、そこへちょうど敏行さまがお見えになって、その金をそっくり自分に貸してくれとおっしゃったそうで。敏子さまは泣いて反
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