ウんがお母さんをいじめるので、あちこち逃げまわるようにしているのね。
金吾 すると敏子さまを芸者に出すという話は?
敏子 お母さんは反対なの。だのに父がどうしても金が要ると言ってね。以前知り合いだったとかで私を小倉へ連れてきてね、いえ、まだ、こうしてあずけられているだけだけど。そこい横田の小父さんが私のことで金を出そうと言うんだけど、父は昔自分が使っていた人なのでそれを嫌がっているのね。母は間に立って、もうどうしていいかわからなくなって困っているようなの。くわしい事は私にはわかんないわ。
金吾 とにかく俺あ春子さまに一応お目にかかって、そんで俺あ、これから敦子さまのお内へ行くか、秩父の方へ行って見るか、とにかく俺あ出来るだけの事はしやすから。とにかく敏子さま、これはな――(いいながらふところの財布から金を取り出して)ここに三千円ありやす。こりゃ、あなたさまの事で春子さまにお渡しする気で持ってきた金で、あんたさまにお渡ししときやすから、その芸者屋のおかみさんにお渡し下さるなり、俺にゃそったら事わからねえから!
敏子 でも、こんな大金、私困るわ。お母さんに渡して。
金吾 いや春子さまにゃ春子さまに、まだもうすこし持っていやすから、御遠慮はいらねえ。
敏子 だって小父さん、お百姓してこんな大金ためるの大変でしょ? どうして、そんな?
金吾 なに、どうしてもヘチマも無え。実あこんだ敏子さまを見たトタンに俺あハッとしてな、はは! 俺が春子さまにお目にかかった時と、今の敏子さまは、爪二つと言ってもソックリだあ。こうして話していても春子さまと話しているような気がしやす。はは、そんでよ、だから――
敏子 そう? 小父さんは、そうやって――(又涙声になる)あのね、小父さんはもしかすると私のホントのお父さんじゃなくって?
金吾 え? ホントのお父さん? そんな事あ無え。敏子さまのお父さまは敏行さまと言う立派な――
敏子 立派な父が、自分の娘を芸者に売ったりするかしら? お母さんだって私の小さい時から父からはいじめられてばかりいるわ。私ときどきそう思う、小父さん、どうして私のホントのお父さんになってくれなかったの?
金吾 そんな事お言いやしても。とにかく、この金はしまっといて下せえ。
敏子 だって私がお金いただいても、どうしていいかわかんないから、母さんにそう言って――
敏行 (それまで
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