Aあの人がここの先の黒田敏行という人に取り入って、とうどうセメント会社を乗取って、今じゃその敏行という人はすっかり落ちぶれているそうよ。――そういう横田の裏も表も私は知りつくしているんだ。ずるいと言っても、まるであんた――この家にしたってそうじゃないの、私をこうやってかこって、第二号邸で自分の持物でいながら名儀をあんたのものにして、あんたは西洋館の方に住まわせているというのが、自分のおかみさんへのカモフラージュだけじゃ無い、税金のがれのためなのよ。そういう人間なの横田というのは。
石川 はは、それはあなたの焼餅半分の邪推だ。社長はそんなチッポケな人物じゃないですよ。
浜子 へっ、そりゃあね――
鈴 あのう、奥様……(障子の内の二人が、ピタリと黙る)
浜子 ……なんだえ鈴や?
鈴 お客様が見えたんですけど、なんですか柳沢さんとか言う、田舎の方のようですけど――
浜子 横田のお客さんだったら、今おりませんからと、そう言いなさい。
鈴 いえ、あの、黒田さんにとおっしゃいまして――
石川 え、黒田?(立ってガラリと障子を開けて出てくる)黒田に会いたいと言うのは変だねえ? 用事は、それで?
鈴 いえ、まだそれは伺いませんけれど――
石川 よし、私が行って見よう。(ドシドシと歩んで玄関の方へ。女中もそれに従って行く。マイクも)……やあ、いらっしゃい。
金吾 ああ、これは――
石川 柳沢さんと言うんですか? 黒田という人に会いたいそうだが、ここは石川で、何かのまちがいじゃないかね?

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(浜子も玄関に出て来る足音)
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金吾 でも番地がこちらさまなもんでやして。わしは信州の南佐久から上京して参りやした――
石川 ああ、野辺山の黒田さんの別荘の管理をやっている――? 以前、私も社長について行ったことがある。それがしかし、急にどうしてここに――?
浜子 どうしたの、この人?
金吾 春子さまから手紙が参りやして。所がこちらになっていやすんで。
浜子 おっほほほ!(だしぬけに哄笑する)ははは! なんてえ事なの! そりやあんた、婆やの春のことじゃないの。はは! 春子さまか、笑わせるよホントに、どうしたのあんた!
金吾 はい、いえ、私あその方にお目にかかりたいと思いやして――
浜子 (笑い声を不意に引っこめて、どなりつける)冗談じゃないよ! 飯た
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