習ってな。
壮六 黒田先生の黒田節か、そうか。
辰造 黒田先生の黒田――ふうん、ええと、ほい、しまった。たしか黒田つう人からここの柳沢君に手紙が来てたぞ。それを届けに来ていながら、何つうこったよ。たは!(郵便袋をガチャガチャと開けて封書をとり出す)ほい! 柳沢金吾君、郵便だ。
喜助 ちゃーっ、職務職務、執行中だい。うまく思い出しやがった。
金吾 どうもそりゃ――(封書をうけ取って裏を返してみる)ああ!
お豊 金吾さん、春子さんから手紙な? どうしていやすかね、元気かね?
金吾 うん、俺あちょっくら……

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歩み出している。刈田を踏んで畔にのぼり、自宅の庭場を横切って、新築した家の裏にまわる。その足音。
[#ここで字下げ終わり]

壮六 (マイクは金吾について行くので、壮六の声はオフになって)金吾う! 何処さ行くだい?
金吾 ……(ビリビリと封書の封を破いてレター・ペーパーを引き出し、パリパリと開いて読む。その間も向うの刈田での、人々のざわめきと、時々叩かれる小太鼓の音)……(向うで、喜助が何か言った声がして、「あはは、あはは」と一同が笑いさざめく声……)
壮六 (足音をさせて近づいて来る)どうした金吾?
金吾 おう壮六……
壮六 春子さまの方から、何かそう言って来たかよ?
金吾 うん……
壮六[#「壮六」は底本では「吾六」] どうしたつうんだ?
金吾 困った……これ読んでくれ。(レター・ペーパーを壮六に渡す音)今度は、逆に敏行さんの方からおどかされて、金をはたられてる模様だ。弱ったなあ、どうすればいいだか。それに、そこに敏子の身柄についても困ったことが出来ましてと書いてある。その事だがな、何でも敏子さまを芸者にするとか、お妾にするとかって横田って男がいろんなことを言うらしい。
壮六 ……うん、これだけの手紙じゃ、俺にあくわしいことはわからねえが、とにかく困っていなさるようだな、うん。
金吾 壮六、俺あこれからすぐ東京へ行ってみべえ。
壮六 えっ、そりゃしかし、お前が行ったとて、どうで問題は金のことだらず。
金吾 いや、金はちったああるしな。とにかく、すぐにちょっくら行ってくら。
壮六 だけんどなあ金吾、こんなこと言うなあなんだけんど、春子さんという人は、おめえにとっちゃ今となっては、まるで、魔物がとっ付いてるようなもんだぞ。もういい加減に夢さ
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