ェ、天狗の舞いをやらかしてると思ってな、ちゃあ、たまげたい!
壮六 あはは、今日はな、喜助頭梁が金吾の家を建ててくれてな、それが建ち上っただからそのお祝いにこうやってみんなで一杯飲んでるんだ。
辰造 そうかよ、なある程、こいつあ見事に出来上っただなあ、ふうん。屋根の工合と、門口の取りつきのかっこうなんず、こりゃ何とも言えねえや。
喜助 え? 辰公、お前にそれがわかるかい?
辰造 へへへ、わからなくって。おらあこんでも、ここら中の三四箇村は降っても照っても歩いてんだぞ。そうさなあ、南佐久中で、こんだけ工合のいい門口の百姓は家五軒とはねえずら。
喜助 こん畜生! こいつはわかるだな。ちゃっ、やい!(辰造にかじりつく)
辰造 わあーっ、素ッ裸でかじりつくたあ、何てえこったあ。これが女ごならええけんど、喜助頭梁じゃゾッとすらあ。
喜助 色は黒いが、南洋じゃ美人だぞ、こんでも。よし、お前、俺の仕事がわかるんだから、一杯飲め、さ、さ。(と茶碗を渡す)お豊、酌をしろ。
辰造 ヘヘ、そいつはありがたいが、今俺は職務執行中につき酒はいただきやせん。
喜助 職務執行中につきたあ、何だい?
壮六 あはは、郵便屋さんが、郵便を配達してるつうこったい。
喜助 そんじゃ辰造、おめえ海の口のすぎやで、鞄下げたままちょくちょくかぶってるなあ、ありあなんだい?
辰造 ありゃ、チュウと言うてな、酒のうちにや入らねえよ。
喜助 チュウかよ、そんだら、こいつはトウだ。
辰造 トウ? トウたあ何だや?
喜助 トウたあ、般若湯のトウだ、お薬だい、ははは、さあ飲め。
辰造 お薬か。そんじゃ頂かざあなるめえ、オットット――(ついでもらって、ゴクゴクと一気に飲む)ふう――うめえトウだ。
金吾 ははは!(他の一同も笑う)
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その笑い声の内に、林の方から、こちらに向って近づいてくるラッパ鼓隊の七、八人の足音。ラッパ鼓隊とは言いながら、ラッパはなく先頭の三人が肩から吊した小太鼓を二本のバチでバババン、バババンと叩きならして、それに歩調を合して進んでくる。
[#ここで字下げ終わり]
壮六 ――やあ、農民道場の衆たちがやって来た!(言ってるうちに生徒たちの足音が間近になる)
塾長 全たーい、止れっ!(足音がピタリと止り、太鼓の音やむ)ええ私どもはそこの農民道場の者たちですが、本日は、柳沢家の御新築が
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