Aそれから壮六よ、どうも俺あいつも口不調法で、礼一つ言わねえが、こんたびはありがとうがす。こんとおりだ。(ガサガサといわせて莚に頭をつける)
お豊 そんな、金吾さんよ、そんな――(言ってる間に、女心でせぐり上げてくる。涙声で)そんな他人行儀な。
喜助 あっはは、あんなこと言ってやがら。
壮六 いや、まったくだあ。喜助頭梁、このお豊なんていうおかかは、こりゃいい女だぞ。へへ、おめえには過ぎもんだぞ、こん畜生め!
喜助 あっはは、羨ましけりゃ呉れてやらあ、何がこの――
金太 ウマウマ、ウマウマ――
金吾 (涙声で)金太郎、ウマウマか。よし、このオトト食え。
壮六 ホントに呉れるか、頭梁。ホントに呉れるかよ、このおかみさん?
喜助 呉れてやらあ。そもそもこのお豊なんつう奴は、俺におっ惚れてな、どうしてもかかあにしてくれつうてきかねえから、俺が女房にしてやった女ごだ、なあお豊、だらず?
お豊 そうだよ、そうだよ、ははは。馬鹿だねえ。
喜助 そうれみろ。よし、そんじゃ俺が一つお祝いに踊りをおどってみせべえ。よっく見ろ、盆踊りなんずの古くさい踊りじゃねえや。この間、松本の寄り合いで習ってきたばっかりの、南洋の土人踊りだい。よく見てろ!
お豊 あらお前さん、着物みんなぬいで、どうしようというの?
喜助 土人だから素ッ裸だあな。体のいいとこを見せてやら。いいか、みんなで手を叩け。(いきなり刈田の上を素裸で踊り出したらしい。手拍子で胴間声でうたいながら)色は黒うても、南洋じゃ美人――
壮六・金吾 あはは、あはは。(歌の拍子に手を叩いて、はやす)
お豊 あらまあ! はっは!
金太 ブ、ブ、ブ、バア――
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この時、離れた林の小道をこの場へ出抜けた所から「うまい、うまい、うまい!」という男の声が聞えて来て、パチパチパチパチと拍手。
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お豊 (そちらを見て)ああ郵便屋の辰造さんがやって来たよ。
壮六 よう辰公、よくやって来ただなあ。
辰造 (菅笠をかぶって、わらじをはいて、大きな郵便物の袋を肩に下げた、中年過ぎの郵便屋。手を叩きながら近づいて来て)こんにちは。どうしただよ、まあ! ああ、喜助頭梁? 俺あ、何かヘンな歌が聞えると思って、林を抜けてそこまで来ると、素ッ裸で踊ってる奴がいるだねえか。てっきりこいつあ、アミダが岳から飛び出してきた天狗
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