A海尻の喜助とお豊さんのことは御存じでやすね。喜助はその後、大工の頭梁で堅気で稼いできた、面白い気性の男でやして、あそこのお豊さんが、もと若い頃、金吾の嫁になりたがっていたことがあってね、それがつい、金吾が春子さんのことがあって嫁をとる気がねえもんだから、まあ諦めて喜助ん家へかたづいたんだが、その後あの夫婦と金吾も、わしも仲よくやって来やした。そんな関係で、金吾がまあ自分はこうやってせっせと百姓やって、田地も五六町出来た、しかし女房をもたねえから後をゆずる子供がねえ、その後とりに、お豊さんの生んだ息子を養子に呉れと言いだしてね、お豊さんと喜助も喜んでね、それで男の子の一人を養子にやるという話になって、それが今の、あの金太郎君でやすよ。すると喜助がね、俺の息子が金吾の家の後とりになるだから、その引出物に金吾の家があんまりひでえから、ちゃんとした家に建て直してやるべえと言い出しましてね。どんどん事を運んで立派な家を建てちまった。その家が建て上って、炉《ろ》びらきの日に、俺と喜助夫婦とそれから金太郎と金吾、そこへ喜助ん家の子たちが他に二人ばかりよばれて行ってね、ちょうど天気もいいし、刈り上げたばっかりの角《かど》の田圃のド真ン中に莚を敷いてね。そこにみんなすわりこんで御馳走を食ったり、酒をくみかわして、きれいに出来上った家を眺めようつうだ。よく晴れ上った秋の日の昼さがりで、こういう時の酒はうめえもんでね、すぐに酔いが発しやすよ、はは。
壮六 (その話の中の、つまり四十四、五の壮六になって、酔って明るく笑う)はっははは、はっははは。何しろ、いい気持だ。おい頭梁、喜助頭梁、お祝に一つ手をしめべえ。お前ひとつ音頭をとってくれ。
喜助 (これも酔っている)ようし! そんじゃ、やるかな。ホントから言やあ、金太が音頭をとるんだがな、なあ金太。
金太 (幼児)ウマ、ウマ。ブウブウ。ウマ、ウマ。(お豊、金吾、壮六、この三人が声を合せて笑う。はっははっは!」[#「はっははっは!」」はママ]
金吾 金太も飲むか?
お豊 金吾さん、この子に酒なんず飲ましたら大変だわ。
金吾 なあに、今日だけはええずら、いくらちっちゃくとも親父の息子だ、なあ喜助。
喜助 おうとも、今日はこやつが正客だい、飲め飲め――
お豊 だってお前さん――
金太 プウ、ウマウマ、ウマウマ。
金吾 そうら、当人が飲むんだと言っ
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