スたいて、みでふるいわけてから、ついて殻をとってね、それを水車へ出して粉について貰いやあ、ソバ粉になりやす。シンソバというのはうまいもんでね、こんだ早速俺が打ってあげべえ。
春子 お百姓の仕事というものは、いいわねえ。
金吾 なあに、いいも悪いも毎年同じことであたり前すぎるようなこってやすから、馬鹿にでも出来やすんで。
春子 いえ、ウソがないから。私しみじみそう思うの、ホントに私、ボチボチでいいから金吾さんにお百姓の仕事習っていきたいわ。そうすればキットお父様も何処かで喜んで下さる。
金吾 はは。そりゃ、黒田先生は喜ばれやすよ。
春子 私、なんだかとてもいい気持。敏子もああして、あなたにすっかり馴染んでくれたし――ああそうそう、もうそろそろお昼だわ。御飯がかけっぱなし。(ソバ畑をソソクサと別荘の方へ歩きながら)金吾さん、じゃすぐお昼御飯にしますからね、お仕事はそれ位にして、手を洗ってちょうだい!
金吾 はい、はい。
春子 (別荘の表ドアを開けながら)敏ちゃんや、もうすぐお昼御飯だから遠くへ行くんじゃないのよ。
敏子 (こちらで)はあい!
金吾 敏子さま、えらいきれいな花があっただなあ。
敏子 おじちゃん、歌、うたって。
金吾 また歌か。おじちゃんは歌は、へえ、駄目だから。
敏子 駄目、うたってよ。盆のうた、うたってよ。
金吾 盆のうたか、しようねえなあ――じゃうたいやすよ。ヤーレー(敏子が小さい両手で手拍子をとる音)はは、ヤーレ、盆が来たのに、踊らぬ奴は木ぶつ、金ぶつ、石ぼとけ、ヤレ、ドッコイ、ドッコイ、ドッコイショ!
敏子 ヤレ、ドッコイ、ドッコイ、ドッコイチョ!
(手をたたいて)もう一度!
金吾 やれやれ、もう一度か、ヤーレ、盆が来たのに――(そこへ森の彼方から、おーいと呼ぶ男の声がかすかに聞える。しかし、それが耳に入らぬままに金吾は歌い続ける)踊らぬ奴は、木ぶつ、金ぶつ、石ぼとけ、ヤレ、ドッコイ、ドッコイ、ドッコイショ!(そのうたにかぶせて森の彼方から近づいてくる男の呼声が、おーいと近づく)
敏子 あら、誰か来たよ。
金吾 ……(すでにその時には彼も誰か来る音に気がついて、そちらを見る。林の中をふみしだきながら、畑のふちへ出て来る男二人の足音)
横田 (畑のフチに立停って、ニヤニヤと笑い出す)はは、へへへ、やっぱりここに来ていたね。おい君ィ!(と金吾に向って)
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