[#3字下げ]第10[#「10」は縦中横]回[#「第10回」は中見出し]
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春子
金吾
敏子(幼女)
横田
石川
敦子
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E 静まりかへった高原の夜の、山小屋の暖炉にパチパチと薪木がもえる音。ボウ、ボウとふくろうの声。
E その静けさの底から、はじめは、それと聞きわけられぬほど微かに、次第にハッキりと浮き立って流れてくる祭りのハヤシの音。(これは後まで断続して聞えてくる)……
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春子 ……(溜息をつくように)良いわねえ金吾さん! これが人間がならしている笛や太鼓かしら? ……軽い、一人々々|翼《はね》を生やした小さな人たちが、山奥に集ってならしているんじゃないのかしら?
この間から毎日ウトウトしながらそう思って聞いているの。……薄衣を着た仙女たちがマジメくさった顔をして笛を吹いたり太鼓をたたいたりしているの。私もそのお仲間にならして貰って、笛でも吹いていたい。もう人間はたくさん。くたびれちまったの。
金吾 ……あんまり話をするのはよして、もうやすんだ方がよくはねえかな。
春子 ううん、こうしてあなたとこんなことを話していると、とてもいい気持。明日から起き出して、私もこのまわりの畑仕事でもしようと思うの。
金吾 やあ、それは、春子さまにゃ駄目でやしょう。
春子 どうして? だって私は寝ながらそう考えていたのよ。もう東京へなんぞ帰らないで、ここで私金吾さんにお百姓の仕事ならって、暮そうって――駄目?
金吾 いやあ、駄目と言うわけじゃねえけんど――いえここでお暮しになるなあいいが、百姓仕事は俺がやってあげるから。
春子 ……そう、私はなんにもやれない人間だわ。東京に居れば居るで、みんなのじゃまになるし、ここにやって来ると金吾さんの厄介もので、あなたに守って貰わなければ何一つ出来ない。(涙声)そこで、山奥へ行って仙女になりたいなぞと考えているのだから。
金吾 困りやす、そんなまた、泣いたりなすっちゃあ、そういうつもりで俺あ言ったんじゃねえんで。俺がちゃアんと何でもしやすから、春子さまは安心していりゃええ。それで俺あ、――わしあそれで、喜んでそうしたいんじゃから、それがわしのつとめじゃから。
春子 ありがとう、金吾さん。
金吾 はは。(相手の気を変えさせ
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