チても、あんまり虫が良すぎるという気がして、正直、憎らしかったわな。やっぱし、私あ、これまで焼餅やいていたんだね、だけんど、ああして乞食みてえになって、弱り込んで、泣いてお礼を言っている人を見ると、まるでへえ、あどけないと言うかなあ、なんか、子供みてえに良い人だもん、憎らしがってなぞおれはせん。みんな、春子さんのせいじゃ無え。運が悪い。そのせいだって気がしてなあ。……(鼻をクスンと鳴らして)わしまで泣いちゃった、うん。
金吾 すまねえ、お豊さん! どうも、こんなにお前に心配かけて、俺あ何と言っていいだか――この通りだ。
お豊 あれ、なあによ、ふふ、そういうつもりだあ無えよ。とんかく、オチクボに連れてって、よくめんどう見てやってくんなんし。
金吾 別荘の方へ連れて行くべえ。こうして、そこの芳平さんとこでゴム輪のリヤカア貸してくれたしな。フトンは、こっちのお借りして行くか。喜助さんにゃ、よろしく言ってな。
お豊 近えうちに、こっちからも行きやす。途中気をつけてな。子供さんは、どうしやす?
金吾 俺がおぶって行っちまうべ。じゃ、ま、いろいろと――
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音楽(第一回に出た千曲川のテーマと同じものを使用)[#「使用)」は底本では「使用」]
千曲川添いの街道を、幼少女を背に負い、春子をのせたリヤカアを引いて歩いて行く金吾のじかたびの足音。時々、川波の音。……
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春子 (リヤカアの上に横になってウツラウツラと眠っていたのが低く唸る)ああ、ああ……
金吾 (立ちどまって)どうしやした、春子さま!
春子 敏ちゃん! 敏ちゃん!
金吾 敏子さまは、こうしてわしがおぶって、よく眠っていやすから。
春子 ……(金吾の言葉が聞こえたのか聞えないのか、又ウツラウツラ……それを見て金吾歩きだす)
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間……(信州のテーマ)
前方からこちらへ向ってカパカパカパと馬のひずめの音がして、村人四(男)が近づいてくる。
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村人四 (中老)やあ、金吾さんだねえかよ。
金吾 ああ藤作の小父さんでやすか。いいあんべえで。
村人四 どうしただい? 病人かなし?
金吾 いえ、その……(言っている内に、双方立ちどまっての話では無いので、リヤカアの音と馬のひずめの音とはすれちがって忽ち引き離されて行く)ごめんなして。……
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