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お豊 なんか病気だあねえかと思うが――お医者に見せねえでいいかな?(女にフトンをきせる)
喜助 そうよなあ。
お豊 ああそうそう、左官屋は明日はきっとこっちに廻ってくれると、
喜助 そうか、そらよかった、……そうさな、俺あ、じゃ、古池先生呼んで来べえ。何がどうしただか、万事はそれからの事だ。(立つ)
お豊 そいじゃ、そうしてくんな。
喜助 (土間におりながら)とんかく、しかし晩めしの仕度早くしろい。みんな腹あ空かして、うるさく言ってら。(足音が表へ出て行く)
お豊 坊主よこしな。(長男の背から幼児を抱き取る「[#「「」は底本では「(」]ウマウマ!」それをあやしながら、立って)お仙よ、どうしただ? どれどれ。
喜一、その子を見ててやるだよ。
喜一 うん。
少女 (弱い声で)お母あちゃま! お母ちゃま!

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短い音楽(朝の小鳥の声などが混って)
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お豊 (金吾に向って)……そんなわけでね金吾さん古池先生が間もなく来てくれてね、しんさつしてくれたっけがこれは、格別どこも病気だあ無え、ただえらく疲れて、総体にからだが弱りきっている、当分こりゃユックリ休ませねえとホントの病気になるそうな。そいで、私あオモユなんど呑ませたりして、そいで今朝になって、やっと少し口いきくようになって、オチクボに行くんだオチクボに行くんだと言っているようだから、いろいろ聞いていると、金吾さん、お前の名をおっしゃるでねえか、私あ、びっくりしてねえ! まさか黒田の春子さんがこんなナリをして今頃こんな所で行き倒れているなどと誰が思うかな。しかも、それをこの私が助けて来るなんて、まあ! 因ねんと言うかなあ、どうにも、たまげちゃってなあ!
金吾 まったくだあ。どうもホントに――
お豊 そいで早速、郵便屋の辰さんに頼んであんたの方に知らせてやったが、その後でさ、喜助はあの気性だろ、金吾がせっかく落ちついてナニしている所へ又々春子さま、やって来てイタぶりにかかる! てめえが良い目を見てる時あ振り返りもしないでいて、落ち目になると、よっかかりにうせると言ってね。なんでもええから直ぐに出て行ってもらえ、叩き出しちまえと、いきり立つ始末でね。はは、いえさ、私にしたって、昔の事を思い出すと、あんな事で春子さんをシンからうらんだ事があるからのし、初めて会
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