トいら。寒いのけ?
少女 ……寒いよう。
村人二 二人とも、よっぽど弱っているようだなあ。
お豊 どうしやしたかね?
村人二 (振向いて)……ここで行き倒れみてえになっていてね。なんにも口いきかねえから!
村人一 おんや、喜助さんとこのお豊さんだねえか?
お豊 ああ、油屋の旦那でやすか。一体どう言う――?
村人一 女の乞食だあ。
村人二 いえ、こりゃ乞食だあ無えわ、ナリはきたねえけんど。
村人一 まあ似たようなもんだ。どうも汽車がしけてから、こんな変な連中が入りこんで来て、土地の者あ、おいねえや。下手に同情したりすると、かかり合いになって、とんだ迷惑受けることがあるしな。馬流の方じゃ土方みてえな行倒れを助けてやったら、それがドロボウだったっちわあ、まあま、うてあわねえこった。お豊さんのお神さん、お先いごめんなさい。うっかり引っかかっていたら、日が暮れちゃったな、こりゃ!(言いながら立去って行く)
お豊 (村人二に)どうしたんでやすかねえ? 小さい子までいるのに――。
村人二 病気かなんかで、弱り切っているだなあ。こんなにふるえていら。
お豊 どうしたよ、あんたさんら? よ? どうしたよ。
村人二 駄目だ。さっきから、いくら聞いても返事をする力も無えふうでね、そんじゃ、おらあ村の駐在が居たら、そう言って置いてやら。……(下駄の音をさせて立去る)
お豊 ……困ったなあ。どうしたよ。あんたさんら? ええ? こんなところに寝ていると病気になりやすよ。この道は今ごろから、めったに人通りは無えだから。なあ?
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女が低く唸る。
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お豊 どっか、おなかでも痛えのかい? どうしただよ? ……弱ったなあ。どこさ行くだよ? どこもこりゃ弱った。(ザーと川波と風の音)……あんたあ、どこから来たよ? これはあんたのお母ちゃんかよ? うん? えらくふるえて――、寒いのかよ?
少女 (幼い弱い声で)お母ちゃま、お母ちゃま。
お豊 お母ちゃま。……困ったなあ、どうすりゃいいだか。(ザーと風の音)
少女 (泣くように)寒いよう。寒いよう。
お豊 弱ったなあ。(これも泣きそうになっている。風の音。その風の音の中から、カタカタと手車の音が近づいて来る)
村人三 (若い男)あれ、喜助大工の姉さんでねえかい。どうしやした?
お豊 ああ、森の市造さんだな。いえ
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