q(幼い少女)
喜一(少年)
お仙(少女)
幼児(ウマウマと言うだけ)
喜助
村人一(男)
村人二(女)
金吾
村人三(男、市造、青年)
村人四(男、中年)
[#ここで字下げ終わり]
お豊 (語り。中年過ぎてからの)
はあ、私がお豊でやす。そうでやすねえ、あれは大正年間でやしたから、もうだいぶ昔のことで、細かいことはみんな忘れてしまいやしたけんど、黒田の春子さまが、その次ぎに落窪に見えた時のことはハッキリおぼえていやすよ。へえ、忘れようと思っても忘れられるものじゃ無えです。実あ私はそん時まで春子さんと言う方とまだ一度も会ったことはなかった。ただ話に聞いて憎らしがっていただけでやして。それが、そん時、はじめて、思いもかけねえヒョンな事で出くわしたんでやすから。……そうだ、初めから話さねえと、わからねえ。
そんでね、そういったわけで黒田さんの別荘やなぞが売りこかされようとしている所へ東京から敦子さまがお金を持ってかけつけて下さってね――いえ、内の喜助も金吾さんのために金を拵えてやるんだと言って変な場所へ飛び出して行ったんですけどね、アベコベにきれいに巻きあげられてしまって、丸裸かになって帰って来ましたっけよ。ハハ、私の亭主と言うものは、そったら人でね。でも心配なので次ぎの朝、金吾さんの家へ行って見ると、その敦子さまが見えていて、そのお金と金吾さんの金を合せて、さっそく先方の横田とかいう人にかけ合って買い取って春子さんに戻してやったのですと。
例の通りの金吾さんですわ。もっとも、あれから、たしか五六年、もっとになるかなあ、その間フッツリ春子さまは別荘にはおいでにならんかった。後から聞くと、春子さんの御主人の敏行さんと言うのが、なんたら株式会社のことで間違ったことをしていたのがバレちまって牢屋に入れられなしたそうで、それに就いては何でも悪い奴等が取りついて、いいようにしていたと言いますわ。そんなことで春子さんは、あちこちとサンザン苦労をなさって、そりゃひでえ目に会ったそうでやす。
しかしそんなことは後になって知ったことで、その当時は私なんず、そうやって一人で春子さんの別荘や山を守っている金吾さんがいじらしくて、春子さんが憎らしいだけでね。私は喜助の所に片附いて以来、もうその頃子供が三、四人いやしてね、喜助はあれ以来バクチの方はフッツリ断って大工の仕事に身を入れて稼いじゃく
前へ
次へ
全155ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング