フ通り、出したとなると又そういう事を言う――
春子 いえ、私の言うのはそんなんじゃ無いの。同じ女同志として、いくらなんでも、はるばるやって来た方をですね、出て行ってもらうにしてもそんなムゴイ事を――
敏行 まあま、その話は後でゆっくりしよう。それとも何かね。東京に帰るのは、どうしてもイヤかね? どうしてもいやならイヤで、私もそのつもりで――
春子 どうしてもイヤだなどとは言ってないじゃありませんか。
敏行 そいじゃ問題ない。まあま、心配しないで私にまかせて大船に乗った気でいるんだ。はっははは! ああ金吾君どうした?(振返って)金吾君! 一緒に君も帰ろう。
金吾 はあ、いえ……(離れた所をついて来る)
敏行 浮かない顔をするなあ。どうしたんだ? はっははは?
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山鳩の声
音楽
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[#3字下げ]第8回[#「第8回」は中見出し]
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春子
敦子
木戸(次郎)
横田
金吾
喜助
お豊
林
男一
男二
音楽
[#ここで字下げ終わり]
春子 いえ敦子さん、みんな私が悪いの、あなたのおっしゃる事なぞ、昔からズーッと、聞こうとしなかった、この春子が悪いのですから、すべては自業自得ですの。
だのに困ったことのあるたんびに、あなたの所にやって来ちゃあなただけでなく、こうして木戸さんにまで御心配をかけるなんて虫が良過ぎると思うの。ごめんなさいね敦子さん、木戸さんも、どうぞかんにんして下さいね、だって、ほかに、行くところが無いんですもの。
父の親戚は、もうほとんど無いし、一二軒残っているのはみんな岡山の方にいるんだし、長与の方の親戚はみんな私の事なぞかまってくれないの。また、敏行がああして自動車をのりまわしたり、帝国ホテルで株式の創立総会を開いたり。
ハデな事ばかりしているのを見ていれば、誰にしたって、その蔭で私たちがこんなに困っているとは思わないでしょう。敦子さん、あなたにはこれまでホントの事を言わなかったけど、今日は言ってしまいます。父が私のために残してくれた財産は、もうスッカリ敏行のために使われてしまったの。麻布の家は幾重にも抵当に入っているし、渋谷の方の土地は売り払ってしまったし、それから株券だとか宝石や貴金属なども一つも残っていません。そしてあの人はああして新橋の方にその芸者の人
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