ちに
自分の全生涯の大小あらゆることを
そのスミズミまでくつきりと
思い浮かべるそうだが
あの話はホントだ
女たちは
一度に五六人で來た
初子
松枝
クミ子
おけい
…………
お前たちはみな
すでに俺から遠い
そこでヒョイと暗い空を
見上げようとしたとたんに
突きあげてきた嘔吐《おうと》
ゲイ ゲイ ゲイ ゲイ
氣がついたら
小川のふちの岩に
さかさまになつたままで俺は寢ていた
おかしくなつて俺は
じかに小川の水に顏をつつこんで
氷のようなうがいをしてから
飮めるだけの水を飮んで
立ち上つて
足は小川の左岸に出た
その時遠くで
かすかにギァアと鳥の聲に似た
ひびきがあつた
いまごろ鳥がなく?
それを別に不思議にも思わぬ
その鳥のないた口の中が
くらやみの中に眞赤にみえた
同時に妻の節子のことを思い出した
赤い鳥の口と節子と
なんのつながりか?
現在までに俺と關係あつた女を
つぎつぎと思い出して
すでに十年もいつしよにくらした
妻のことを
最後に思い出す
しかも思い出すことごとくが
白茶けて味も匂いもなくなつている
どこもかしこも知りつくしたためか
それともあれで
俺がいちばん深く愛し
前へ
次へ
全22ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング