小父さん
何がおかしいだい?」
「おかしくはないよ」
「せば なんで笑うだ?」
「笑いやしない」
「ウソをつけ
ほら 笑つてら」
[#ここで字下げ終わり]
おさえてもおさえても
俺の笑いはとまらない
なにか泥醉したように
俺の兩足は歩きながら
互いにもつれてヒョコヒョコする
[#ここから2字下げ]
「ヘイブンブンが
馬のクソに醉つぱらつた!」
[#ここで字下げ終わり]
ヨタヨタと音をたてる
俺の足音に
耳をすますようにしていた捨吉が
やがて
クスクスと笑い始め
アハハハと
夜空を仰いで聲をたててから
再び二人とも歩きだす
鳴り始めた捨吉の笛の音色が
ヒョイと變つたと思つたら
道はだしぬけに林を拔けて
高原のはじの崖の上に出ていた
空はうす明るくなつている
足だけが踊るようにしながら
捨吉が笛を吹き行く後から
崖道に出る
二匹の蠅が
笛の音に合わせて
手をすり
足をすつて現われた
夜明け前の冷たい空氣が
深い谷あいに開けて
はるかな向うの山脈の上は
すでにいくらか白みかけた
見おろすと
谷あいはまだ暗い
[#ここから2字下げ]
「さあついた」
[#ここで字下げ終わり]
捨吉は立ち止つた

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