みつけてやるべえと思つて
驛の所に立つていたら
男の人や女の人が
いつぺえ通つてよ
そん中に
父ちやんや母ちやんが
いるような氣もするし
いねえような氣もするし
おんなじようなことだと思つて
さがすのはやめた」
[#ここで字下げ終わり]
ヒョイと氣がつくと
俺の兩頬がつめたい
いつのまにか涙が流れている
俺はポケットから
ウイスキーのびんをとり出して
一息に中味をあおつた
火のようなものが
ノドを通つた
俺はそのびんを
暗いからまつ林の中へ
ビューッと投げた
びんは遠くで、からまつの幹にあたり
ピシリとくだけて散つた
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「なんだや今の音は?
なんかほうつたのか?」
「なんでもない」
[#ここで字下げ終わり]
言いながら左手の指は
ポケットの中の
藥のびんをまさぐつていた
急におかしくなつて
俺は聲をあげて
クスクスと笑い出した
腹の底からのおかしさが
こみ上つてくる
氣がついてみたら
俺の中から
死のうという氣が
まるでなくなつていた
そして もう一生 そんな氣が
俺にはおきないだろう
どうしてだかわからないが
それがハッキリわかつた
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「
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