少しあせり過ぎやしないかな。
轟 ……でも、人間、三十づらを下げて、こうしてウロウロしていますとねえ。それに生活……生活と言うんじゃ無い、生きているだけ……ただ食って寝て生きて行く食物や家賃さえ、来月のやつが見当が附かない、と言いたいが、四五日先きの当てが無い。おまけに病人だ。……せめて書いた物を上演してくれるあてでもあれば、金も金だけど、おふくろだって、暮しのことも病気の苦しさだって耐えて行ってくれる――。
三好 無理も無い。チャンと一人前の劇作家として世の中に立って行けるだけの腕は君には有るんだものな。……しかし今更そんな事を言ってたってどうなるんだね? 文壇だとか劇壇だとか考えて見たって、結局つまらんじゃないか。人一人、安心して死ねる所じゃ無い。つまらんよ、そんなもの。全体、俺達はウヌの好きで何は措《お》いてもやりたいと思った事をやってる。世間を見渡して、これで、自分のホントに好きな事をやっていると言う人は、極く僅かしきゃ居ないぜ。俺達が、なんだかだと言いながらも、かつえ死にもしないで、こうしてやって行けているのは、ありがたいと思わなきゃならん。僕あ、そう思っている。……僕なんぞ
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