らねえ。僕は近い中に一度、辻森淳三さんにでも逢って、新聞か雑誌でもう一度あらためて批評して貰おうと思っているんだ。
三好 違う違う。僕の言うのは、目明きが千人居て、別にめくらが千人居ると言うんじゃ無いんだ。同じ千人だよ。目明きの千人が同時にめくら千人なんだ。一人々々が、みんな目明きだし、同じその人がめくらだ。どっちにしても批評と言うのは、そんなものなんだ。
轟 そうかなあ。……しかし立派な批評家に批評して貰った作家は幸福だと僕は思うがなあ。
三好 僕は必らずしも、そうは思わんな。同じだよ。場合に依って、批評家から何だかだと言われるよりも、その辺に歩いている車引きのおっさんみたいな人から何か言って貰う事が、僕なぞ、うれしい事があるぜ。
轟 そりゃ、わかるけど。……三好さん、辻森さん知ってるんですか?
三好 よくも知らんけど、二三度会った事はある。逢うの?
轟 ええ。とにかく今後の事も頼みたいし。紹介状書いてくれませんかねえ?
三好 ……ああ、書いてもいい。この次ぎまでに書いとく。
轟 いつも、すまないけど。
三好 だが……逢うのは、いいが……どうして君は、そんな事ばかり気にするのかね? 
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