んな事をね……一つは御時勢がこんな風になって来たんで、連中、とても威勢が良くなったせいもある。
三好 時勢のせいじゃ無いね。……僕が昔ホントに赤大根だったせいだよ。
轟 そ、そんな、そんな――。
三好 いや、こいつは皮肉でもなければ、よくある自嘲でも無いんだ。俺あ、そうだったんだよ。七八年前を想い出すと冷汗が出る。
轟 だって、一人の劇作家として、とにかく戯曲と言う面から言って、つまり純粋に芸術的な業績としてチャンと――。
三好 そんなもの、大した事じゃ無い。又、もしそうだとしてもだ。そうだとすれば尚更だ。これはね。過去の自分をあわてくさって言葉の上だけで否定し去ることに依って、現在を韜晦《とうかい》するために、言っているんじゃ、決して無いんだ。鞭をあげて俺を叩く資格を持った人は、いくらでも鞭打つがいいんだ。……何と言われようと、俺あ、もう腹は立たん。俺あ、これから勉強しなおすんだ。よしんば……身体もこんなに弱ってるし……その勉強がなんの実を結ばなくても、実は結んでも、そいつを世に問う事が出来なくても、そいでも俺あ、いいんだ。自分として、腹ごたえの有る気持に到達出来さえすれば、そいつを
前へ 次へ
全109ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング