軸を二人に見せる)有った。
三好 そりゃ良かった。
お袖 (心配して眼をキョトキョトさせて)まさか、先生……?
堀井 なに、奥の定紋入りの手文庫で、四つばかり封印の貼ってない奴が有ったろ、あん中さ。ハハ、骨を折らしやがった。(立ったまま刀をスラリと抜く。ドキドキするような刀身が庭の木の葉の反射を受けて光る)そら、まだ錆びてやしない。(一つ二つ素振りをくれる)
お袖 あぶないわ、先生!
三好 ……(再びモッサリと坐って)斬るつもりなんですか?
堀井 勿論さあ。
三好 だって、先生は、向うへ行ってもいずれ病院でしょう?
堀井 だけど、病院と言ったって、奥地へ入りこめば、そう始めからしまいまで、病人やけが人ばかりを相手にしてメスばかりいじくっているわけでもあるまいじゃないか。敵さ。敵だよ。
三好 さあ、敵も敵だろうが、それよりも、先生なぞ、自分の中のお人良しと言う奴を向うへ行って斬り捨てて来て欲しいな。
堀井 又、それを言う。……然し、君の言う通りかも知れんね。いずくんぞ知らん、敵は我が腹中に在りか。よし、そいつを、ぶった斬って来る! なあに! ウッと! なんしろ、持っているだけでも、気強い
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