……ごらんなさいよ、あの朝寝坊さんが、こんなに早く裏口なんぞから入って来てさ、クモの巣だらけになってかき廻していらっしゃる。先生の気性を知っているだけ、私なぞ、出来ることなら――。
三好 引っぺがしゃいい。
お袖 だってさ、(両手を背後にまわして見せる)これですもん。
三好 かまわんですよ。僕が引き受けます。
お袖 とんでも無い。こうして、居て貰っているだけでも、すまないと言ってらっしゃるのに、そんな、あなた――。
三好 あべこべだあ。僕あ、行き先きの無い人間なんですよ。――とにかく、そいつは、持って行かないじゃ駄目だ。(立って行きかける)
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(そこへ、奥の廊下に足音がして、堀井博士が、手に日本刀を一本と小さい軸物を一つ持ち、塵をフッフッと吹きながら入って来る。四十才位で大きな身体に、半礼服の黒っぽい洋服。おしゃれと色白の顔と鷹揚な人柄がシックリ一つに溶け合って、年よりもズッと若く見える。良家に人と成って苦労知らずに育った秀才で、専攻の医学以外の事では、ひどく投げやりな風である)
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堀井 (子供が菓子でも貰ったようにニコニコ笑いながら、刀と
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