、ボンヤリとオルゴールに聞き入っている。邸内はシーンと静まり返っている。……オルゴール、曲を奏し終って鳴りやむ。……三好、しばらく原稿紙を見詰めていた末、フト、ペンを取り、書きそうにするが、またペンを置き、何か考えていてから、ブルンと頭を振って、煙草を取ってパタンと煙草入れのふたをすると、オルゴール再び鳴り出す。三好、煙草に火をつけるのも忘れ、それをボンヤリ聞いている。……間。……オルゴールの曲が終りに近づく。
奥の襖を開けて入って来るお袖。四十六七の、腺病質らしい、垢抜けのした、銀杏《いちょう》返しの女。
[#ここで字下げ終わり]
お袖 ……よくよくお好きなんですねえ、ほほほ……。
三好 (夢から醒めたように)なんですか?
お袖 いえさ、こないだっから、そればっかり聞いてらっしゃる。
三好 やあ。ハハ。……先生は?
お袖 奥の倉の中。
三好 見つかりませんか?
お袖 タンスや長持ちが開けられさえすれば、チャンと御先祖伝来のもんですからねえ、いずれどこかに有るにゃ有るんですけどね、たいがい、ペタペタやられているんですから。
三好 持って行かせたいなあ。
お袖 先生だって、そりゃねえ
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