くして、再び此の室に戻って来る。誰も見つからなかったらしい。少しボンヤリして室の中央に立っている)……え、と……。
三好 どうしました?
韮山 ふん……(上手の襖の方へツカツカ行き、それをガラリと開ける)……(その奥――食堂や洗面所がその方にある――に、予期しなかったものを見たらしく、ガッカリした顔で立っている)
女の声 (奥で、向う向きになって、何かしながら言う声)……あら、三好さん?
三好 ……今頃起きたのか?
登美 お早うござい。……(言いながら歯ブラシを口にくわえた顔を出す。廿二三の、身体つきのスラリと若々しい女。寝起きに冷水摩擦をしていたもので、ワンピースの胸のスナップをはめながら、まだボンヤリ立っている韮山を見てチョット目礼)……いらっしゃいまし。
三好 眼の玉が熔《とろ》けちまやしないか?
登美 ハッハハ。お袖さんは? もう朝ごはんすんで? 私、おなかがペコペコだ。(歯をゴシゴシみがく)
三好 もう何時だと思っているんだい? ソロソロ昼飯だよ。お袖さんは居ない。
登美 また、神様? フフ。(韮山に)失礼いたします。(奥へ引込む。鼻唄を低く唄いながら、水を出す音)
韮山 (
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