くなり声を忍んで笑いながら縁側の三好を振返る。三好は、笑わず早く行くようにと手で示しながら、玄関の方を気にしている。お袖と堀井、庭を上手へ消える。それと殆んど入れ違いに、下手八畳の室の下手の襖を開けて初老の男(韮山)が、ノコノコ入って来る。古ぼけた洋服が身体に合わず、小さい両眼が赤く充血している。三好は此方の縁側に立ったまま、その気配に気を配っている。)……(やがて、大きな声でどなりつける)誰だあ?
韮山 …………(その声に耳を立てるが、返事はせず、キョトリキョトリとその辺を見まわしている)
三好 ……(振返って見て、堀井達の立去ってしまったのをたしかめてから、廊下をノソノソ歩いて、八畳の方へ)ああ、あなたでしたか。
韮山 やあ。……
三好 ……なんだかムシムシしていやな天気ですねえ。
韮山 天気? 天気など、どうでもよろし。堀井博士に私が来たと言って下さい。
三好 堀井さんは、居ません。
韮山 冗談言ってはいけまへん。居ないものが、あんだけ呼びりん鳴らすのに、なんで誰も出て来ない?
三好 (笑い出して)居ないから出て行けないのですよ。だけど、ベルをあんなに激しく鳴らすのは、かんべんし
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