大した問題じゃないと思うんだ。どっちせ、僕らはもう非合法の仕事をしてるわけじゃないんだから、堂々正面からやってきて――まさか、こっちがわに入りっきりに入りたいというんでもないだろうから――情報の提供でもなんでもしてくれたまえな。ただそれをそのままに信ずるかどうかということは、各自の自由だからねえ、どうかあしからず。ハッハハハ(三芳に)ところで僕ぁソロソロ委員会の時間なんで行かんならんが、なんかすこし食う物はないかねえ?
三芳 そうそう、いやさっき、そう言ってあるから、もうできて――(奥へ向って手を叩く。この男の津村にたいする態度は、表面対等であろうとしながら、実は無条件に迎合的である)おい、久子! 久子! (立って扉の所へ行き、手をたたく。奥から「はあい!」と女の声)どうしたんだ? おい! チエッ、しょうがないなあ、久子う!
久子 はいはい! (言いながら出てくる。三芳より年上だが、それがしばらくわからぬくらいのなりをしている。真紅のブラウスで腕のまる出しのやつを着て、男のズボン。頭は後頭部にまるで毛の無いかりあげのボッブ。鼻の両わきにきざんである非常に深く長いシワを特色とする顔に、ブラウスの赤さにまけないくらいの頬ベニとクチベニ。腕にトンコを抱いている。そのケンランたる印象に、ギョッとした大野が、思わず立ちあがって、口をあけて見守っている)なんですの?
三芳 なんですじゃないよ! 御飯々々! 津村君のさ! あいだけ言っといたじゃないか。ボンヤリしていちゃ困るよ!
久子 できてるわよ、もう! でもさ、すこし――
三芳 できてるならできてると、なぜ早く言わないんだ、バカヤロウ!
久子 なにがバカヤロ! なの!
三芳 バカだからバカだと言うんだ。津村君が急いでいること、お前知らんわけじゃあるまい。
久子 だから、それは、もうおうかたできてるんじゃないのよ。私の言っているのは、あなたが、いまだにそんなふうに私にたいして圧制的な物の言い方をなさるのは、やめてくださいと言ってるんだわ。もうファッショの時代じゃないんですからね! それにあなただって、とにかく――
三芳 そ、そんなことを言ってるんじゃねえんだ。くそ!
久子 ホホホ!(不意にエンゼンと笑顔を作って津村に)ねえ津村さん、そうじゃありませんか!
津村 いや、まあまあ、いいですよ。ハハ、いつも、どうも御厄介をかけてすみま
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