ど、わしなんども方々問合わしたが、喜十さんの方にそんな事あ無えでさあ。そのおとどしの選挙の時の須山さんの買収をサシたの喜十さんだつたと言うのも濡れぎぬだ。第一、こんな人がそんな出過ぎた真似をするかしないか、誰が考えてもわかる筈だに、ツイ芹沢の口車にのつてなんとなくそういう事になつちやつてるのでやす。
りき ……たしかに、喜十よ、悪い事しねかつたというの嘘じやねえな?
喜十 俺あへえ、たとえ神さまの前で嘘つく事あつても、ばさまの前で嘘あ、つきやせん。
りき よし、よからず、んじや。ならば、お前は喜こんどれ、そんで、ええ。自分は幸せもんじやと思つて喜こんどりや、それでええのよ。
喜十 へい?
りき 村八分になろうと七分になろうと、そつたらこと捨てて置いて百姓しろ。そうだらず? 今どき人さまに対して悪い事を一つもしねえで過して行けるというのは、大した事だぞ。自分がそれ知つてれば、それでいゝじやねえかよ。こんな満足な事あ無えんじやから、満足してればよからず。第一、村のもんが今いくらお前をイジメにかかつても、人間わけも無えことを、そういつまでもやれるもんで無え。今に飽きて、忘れつちまわあ。
喜十
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