方で「待避! 至急待避だっ[#「待避だっ」は底本では「待避だつ」]!」と叫ぶ声と、人々が待避に駆け去る足音)
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男4 ……ふう、……き、き、来ましたねえ!(右手で鉄棒にかじりつく。左手の動きが、こきざみにはげしくなる。男はキョトキョトそのへんを見まわした末に、からだ全体をちぢこめ、石のように強直してしまう。頬の肉がブルブルとふるえている。男2はサッと立ちあがり、顔の中から今にも飛びだして来そうな兇暴な目で鉄の棒の間からこっちを睨む。男3は歯をむいて「タッ! おい、おい、おい! やい!」と思わず叫んだり、顔じゅうをしわめている。あたりはシーンとなってしまう。空襲警報が鳴りやんでから空襲のはじまるまでの間の静けさ。……その中を、中央の廊下をスタスタとこっちへ歩いて来る人影。鉄柵の前の明るい所に来たのを見ると友吉。衰えきってほとんどすき通るような顔色。左腕は肱の所からブランとなっている。右手にさげていたバケツとゾウキンを廊下の隅にかたづけ、廊下の奥を見る)
男3 おい、エスさん! エスさん! 空襲だ! 空襲だよ!(口中がかわいてしまったカスレ声)
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