うと両手を突き出してウロウロする。壕舎の中では、リクが見も聞きもしないで、妙な手つきをつづけている。斜陽。飛行機のうなり声)

        7

[#ここから2字下げ]
 壁と鉄棒でできた非常にせまい箱の中。
 壁の上部の小さな空気穴からの明りが、箱の中をボンヤリと照らし出している。他にも同じような箱が並んでいるが、暗くてよく見えない。男1(背広)、男2(和服――ヒトエ)、男3(シャツにズボン)、男4(和服――ユカタ)、の四人が、ひどい暑さと倦怠にグッタリと疲れきって、壁に背をもたせ、互いに押し合ったまま、ギッシリと並んで坐っている。四人とも、帯やバンドやネクタイなしで、ひものようなものを帯のかわりにしている。語るべき事は語りつくし、互いにまったく興味を失い果てて、死んだような無表情。時間の進行が停止してしまったような不動の中で、男4だけが、立てヒザにのせた前に垂らした左手を始終ヒク、ヒク、ヒク、と脈搏が打つように動かしている。
 すこし離れた所から、静かな低い歌声。歌詞は聞きとれぬ。――間。
[#ここで字下げ終わり]

男1 ……(低くつぶやく)うるさいなあ。……うるさい。
男2
前へ 次へ
全180ページ中87ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング