村 え! どう――?(意味はわからないなりに俊子の様子があまりにただならないので、びっくりして、あわてて)なにを――?
俊子 早く! 北村さん! 早くさがして! 兄さん! 明兄さん! お父さんが――早く、早く!(北村が左手の傾斜をかけあがって行き、消える。俊子は両手を空に突き出して、ハダシで、そのへんの焼土の上を、さぐり歩きながら)明兄さん! 明兄さん!(叫ぶ)
明 う? ……(やっと[#「やっと」は底本では「やつと」]土から起きあがって、モーローとした眼で妹を見て)なんだ! どうしたんだよ!
俊子 早く、兄さん! 早く!
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(そこへ、ここからは見えない崖の上で北村が、たまぎるような声で叫ぶのがきこえる)
[#ここで字下げ終わり]
俊子 あ!
明 どうしたんだよ、ぜんたい?
北村の声 早く来てくれえ、明君!
明 ……(崖の上を、まぶしそうに見あげて)なあんだよお!
俊子 早く行って兄さん! お父さんが――
明 ……(いきなりギャッ! というような叫びを上げ、兎が駆け出すように傾斜をかけのぼって行き、消える)
俊子 ……(今は声も出ず、見えぬ眼で、自分もそちらへ行こ
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