黙っていたんだ、そんな連中は。そうじゃないか! いくら居たって、知らん顔してりゃ、居ないのも同じだい。俺あ、兄きの事をいってんじゃないぜ。兄きみたいなキチガイ野郎を、みんなが憎むのは、とうぜんだ。俺だって憎むもの。いや、誰よりも俺が一番憎んでいるかもしれない。憎い! ……だけど、この俺に、どんな罪が有るんだ? 俺が、どんな悪いことをしたんだ? 俺が、どういうわけで、みんなからイジメられなきゃならねえんだ? なあに、兄きは兄きで、今に法律で処置される。されなかったら、俺が処置してやらあ。やるとも! だけど、だけどね、北村君、仲間から、つまり君のいう、同じ労働者どうしからだよ、ただ、ただ、兄きの弟だという理由だけで、あんなにイジメられ、ヒドイめに逢ったという事は、コタエたよ! ああ、コタエたとも! 忘れられねえや! あれ以来、俺あ、どんな人間も、どんな事も、信用する気がなくなっちまったよ。ああ、もうごめんだあ! んだから、早く出征して、死んじまうんだ!(焼けた木のカブにかじりついてすすり泣く)いいや、出征なんかどうでもいい、ここにこうしている所を、ガシャーンと一つ、バクダンをおっことして
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