くれッ! こうしてたって、しょうがねえ[#「しょうがねえ」は底本では「しようがねえ」]。俺が出征すりゃ、おやじもおふくろも、俊子も、どうせカツエ死にするんだ。だから今、ひと思いに、ガシャーンと、ビー二十九さまさまよ、五十キロバクダンを、この真上に一つ、おっことしてくれよーう!(うつぶせに地面を抱きかかえるようにする。……北村はいうべき言葉もなく、泣きそうな顔をして見おろしている。赤い夕陽。空のどこかで不気味な飛行機の爆音)
北村 ……(しょうことなしに[#「しょうことなしに」は底本では「しようことなしに」]、四、五歩あゆみ寄って壕舎の中の三人をかわるがわる見ていたが)おじさん、ごせいが出ますね?
義一 う? ……(ボンヤリした眼つきで北村を仰ぎ見て)やあ。いやもう、ダメだね、時計なども。いちばんかんじんなテンプなんぞに、この、ニュームなんぞ使うようになっちゃ……狂ったら、もう、へえ、なおしようがない……うん。(自分でも何をいっているか意識しないようで、言葉がブツブツと一人ごとになってしまう)
北村 ……(寝ている俊子へ)俊ちゃん、どうだい?
俊子 ああ、北村さん? 今日は。
北村 まだ
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