んのは、もっと[#「もっと」は底本では「もつと」]、べつに有るんじゃないだろうか? ……(恐怖に満ちた目で治子が彼を見つめている。人見も治子の顔に目を止める。兄妹が、ジッと見合っている。……そこへ、はじめ遠くから、次第に近く鳴り響いてくるサイレン。それにつれて、かなり離れたところで、監視員が情報と警報をどなっている声)
治子 ……(耳をすまして聞いていたがいきなり)空襲のようです。
人見 たしかに、けんとうちがいだ。
治子 ……(その兄のサクランしたような表情をして動かないで坐っている姿を、ジッと見るが、戸外の気配を察して、ローソクの光を吹き消す。まっくらになる)……兄さん。
人見 うん?
[#ここから3字下げ]
(サイレンの音つづく。……戸外遠く監視員の警報伝達の声。それも、やむ。静かになる)
[#ここで字下げ終わり]
人見 (まっくらな中で)……あんなにカタクナな人間を、私は知らない。あんな柔和な、おとなしい人間が、どうして、あんなふうになるんだろう? ……私にはわからない。……あの男のいっていることは、正しいのだ。あの男の信仰は単純なものだけど、まちがっては居ないのだ。……それを
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