、そんなふうに教え、そんな信仰をあの男にあたえてやったのは、この私だ。……そして私は今、それがみんな、まちがっていたから、転向しろとあの男にいいきかせている。そんな信仰は、みんなウソだから、捨てろといっている。……フフフ。……あの男は聞かない。私が今そんな事をいうのは、悪魔にとりつかれたためだといってる。そして私は、祈れなくなってしまっている。なにもかもを、疑いはじめている。……それが、みんな悪い人間の悪い行いを見たためではなくて、正しい人間の正しい行いを見たためだ。……私を地獄に落したのは悪魔ではなくて、天使だ。……私をダラクさせたのは、疑いではなくて、信仰だったのだ。……ユダがもし、キリストに逢ったり、キリストを信じたりしなかったら、悪人にならないですんだのではないだろうか? ……私の信仰をつつきこわしてしまったのは、片倉の信仰だ。まるで神さまのようなあいつの強い信仰が、私をドブの中に叩きこんでしまったのだ。……弱いため? 私があの男よりも弱いだけのためというのか? そんな事はない。だつて、それなら、私以外のすべてのキリスト教徒はどうなんだ? みんな弱いためなのか? ……弱いだけの
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