じゃ、あれを、此処に連れて来させるように、いっといてくれ。よろしい。
下士 は。それでは――(挙手の礼をして室を出て行くべく扉を開ける。その開いた所へ、出あいがしらに、廊下の方からフラフラと入って来る雑誌記者浮田。久しく着たきりでヨレヨレの背広の背中やズボンが裂け、蒼白な顔が動かず)
下士 ……こっちじゃないお前は。向うの須山中尉殿の室だ。
浮田 はい。(かがとを鳴らして足をそろえて不動の姿勢になり、伴の顔に注目したまま、いきなりべラべラとしゃべりはじめる)申しあげます。この、日本を主導者とする東亜共栄圏の確立は、すでに東洋全体の必然であると同時に、世界の必然であり、必要であります。政治的経済的に、この事は立證されることは、もちろんでありますが、更に文化的にも哲学的にも立證することのできるものでありまして、人生と社会と国家及び諸国家の連合などに関するヨーロッパ的理念は、もはや崩壊しておりまして、その点、くわしく具体的にのべておりますと、くだくだしい事になりますから、省略いたしますが、私が考えに考えたあげく到達しました結論だけを申しあげるのですが、その、ルネッサンスにおいてキャソリシズム
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