、聖書の言葉をウノミにして自分を押し通そうとする事は、日本国民としてあるまじきことだし、いや、それよりも、実はキリスト教徒として、それは、まちがっている事だ。いいかね、友吉君! 今、君がいったような事は、言葉の、文字の上では正しいようだけれど、実際に於ては、まちがっている! そうじゃないか? だって、向うには、つまり敵国は、キリスト教国なんだから、日本よりたくさんのキリスト教徒がいる。その国が、その国の人間が、誰も戦争に反対してはいないのだ。進んで戦争に参加しているじゃないか。え、どうだ? それを見ても、君のそのような狂信が――
友吉 ……それは、向うのキリスト信者も、まちがっているんです。
人見 そ、そんなふうに思うのは、君のゴーマンさだ。世界中の人間がまちがっていて、自分だけが正しいと思うのはゴーマンさだ。いいかね? 信仰上の事は、神の国のことだ。霊に関することだ。しかし、われわれが生きているのは、この世だよ。この現世だ。つまりケーザルによる社会だ。われわれには霊も有るが、肉体も持っている。肉体には、食物も必要だし、食物のためには、戦うことも必要だ。そのためには、しかたがなければ戦
前へ
次へ
全180ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング