ったんじゃないんだろうかと思った事はないかね?
友吉 それは、そんなふうに思ったことも、あります。しかし、僕の頭はどうにもしたんじゃありません。エスさまは、チャンといらっしゃるんですから。
宗定 ふんふん。よろしい。大体まあ、それでよいが、この、なんだぜ――
人見 ああ! ……(それまで宗定と友吉の問答の一つ一つを、緊張のために眼をむきだして聞いていたのが、この時、苦脳のうめき声を立てる)あの、なんです、この……おい片倉! 君も、この、君は考えてくれなくては困る! 信仰は――この宗教上の信仰の点では、君は、えらい。いや、その、えらいようだけれども、それは君、狂信だ。たしかに狂信だ。そりゃ、聖書に書いてあることを、そのままに信ずるという事は、大事ではあるけれど――いや、この、聖書のことだって、いろいろの解釈が有るのだ。解釈しだいで、この、なんです、つまり――いや、われわれはキリスト教の信者であると同時に、いや、信者である前に、日本国民だよ。だから、信者として守らなければならぬ信仰上の事がらも――いや、それも大事だけれど、その前に、日本国民として守らなければならぬ事が有る。それを忘れてだな
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